パワーハラスメントにならない指導の仕方3

第1回では、パワーハラスメント(以下、パワハラ)が保育園という組織で起こりやすいことについて、第2回では、心理的安全性についてお伝えしてきました。今回は、心理的安全性セルフチェックの続きをしていきましょう。

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心理的安全性セルフチェック(続き)

2.助け合いチェック:ミスを報告しやすい環境ですか?

あなたの職場では、ミスをした時、どうなりますか?
<アレルギーのある園児への対応のシチュエーション>を見てみましょう。

ある日、あなたは出張のため、ヘルプの先生に任せて、午後のおやつの時間が始まるころに園に戻ってきました。
クラスの園児Aは食物アレルギーを持っていましたが、あなたがクラスに合流すると、園児Aの食器が、アレルギー対応食用の色分けされたものではありませんでした。

ヘルプに入った先生に事情を聞くと、アレルギーがあることは分かっていたが、栄養士に何も言われなかったので「大丈夫なのかな?」と思いつつ、栄養士にも、主任や園長にも確認せず、そのまま配膳したということでした。

さて、この後、あなたはどのような対応をしますか?
@ 命に関わることなので、ヘルプに入った先生を厳しく叱責する
A ヘルプに入った先生に、再発予防の方法を考えさせる
B 園全体で再発予防策について話し合う
心理的安全性を高めるのであれば、Bが望ましいでしょう。確かに、同じミスが起こらないように、本人に注意をすることは大切です。しかし、ミスをした時に厳しく叱られる職場では、かえってミスの報告がしづらくなります

また、このケースの場合、ヘルプの先生だけの責任ではありません。
・栄養士が気づかなかったこと
・ヘルプの先生が気づいていたのに確認をしなかったこと
・担任の不在を考慮して、上司が見回りをしていないこと
・あなた自身がヘルプの先生に念押しをしたり、上司に見てもらえるよう伝えていたりしなかったこと
など、様々なヒューマンエラーが重なり起こっている出来事です。このように、初期段階で、ミスや懸念事項の報告がなく、最終的に重大なミスにつながった、あるいは致命的なミスにはつながらなかったがヒヤリ・ハットのケースが少なくありません。また、同様のことが今後、再び別のクラスでも起こる可能性があり、全体への共有や日ごろから助け合えるシステムや体制が必要です。

もしも、ミスをしても相談できる、懸念事項に気づいた時に率直に上司に質問できる、責任がその場にいた一人に押し付けられないような、助け合えるチームであれば、ミスは何重にも予防することができます。そして、叱る必要も叱られる必要もなくなり、パワハラも予防できます。


3.挑戦チェック: 新しい意見が採用されますか?

あなたの職場では、新しい意見が出た時に、どうなりますか?新しいアイディアが受け入れられやすい環境か、確認していきましょう。
<保育士の壁面制作の手作りをやめようという意見が出たシチュエーション>を見てみましょう。

ある日、後輩に来月の壁面制作を頼んだところ、こんな意見が出ました。
後輩「考えたんですけど、月末まで行事の準備が忙しいですし、来月分の壁面制作は園児の作品だけにしませんか?」
あなたも内心、壁面制作には苦労してきて、やめたいなと思っていました。しかし、主任の反応を考えると、受け入れてもらえるか心配です。
さて、あなたはどうしますか?
@ 「主任に反対されると思うよ」と答える
A 「そうだよね。主任にも相談してみるね」と答える

壁面制作は、好きで作っている方もいますが、毎月苦労されている保育士さんも少なくないですよね。実際に、主任に相談しても、良い顔をされなかったという結果になることもあり得ます。それでも、心理的安全性を高めていくなら、あなたと後輩のチームでは、まず、Aの選択を選んだ戴きたいところです。
組織全体として、心理的安全性を高められるのは理想的ではありますが、まず、あなたがリーダーをしているチーム内での安全性を高めていきましょう。後輩が、「組織としては認められなくても、このチーム内では、新しい考えを安全に伝えることができる」と感じられることが大切です。
あなたが主任の立場であれば、新しい意見によく耳を傾けてみてくださいね。

4.新奇歓迎チェック:自分と異なる個性や指摘を受け入れられますか?

あなたの職場では、今までにないタイプの新人が入ってきた時に、どのように対応しますか?役割に応じて、強みや個性を発揮することを歓迎されているかどうか、確認してみましょう。
<得意分野の偏りが大きい新人に、どのように働いてもらうかというシチュエーション>を見てみましょう。

今年の新人のB先生は、子どもとのコミュニケーション、ピアノや製作は自体は非常に得意ですが、朝が弱いので早番では遅刻を度々し、保護者対応があまり上手ではありません。また、まだ勤めて1年もたっていないのに、園の改善点などを指摘してきます。あなたは先輩として、どうしますか?
@ 苦手なこともできるようになりなさいと、指導する
A 配置やシフト、改善点について、上司に相談する

これまでの社会の流れでは、@が選ばれてきたことかと思います。しかし、これからの多様性を尊重していく社会の流れに沿い、心理的安全性を高めるのであれば、Aの選択肢が有効です。

まず、適切な配置を行うことは、新人のB先生だけでなく、すべての職員に必要なことです。朝が苦手な人に、「早い時間の出勤に慣れてもらうため」と言って、早番を多く任せ、遅刻すれば叱責するということが度重なれば、パワハラと感じられてしまうことでしょう。平等に誰もが同じようにできるようになることを求めすぎず、それぞれの人材が本領発揮できる配置をしっかり検討していくことが大切です。既存の人材についても、よりパフォーマンスが向上する配置を再検討してみてください。

そして、「新人の言うことだから」「まだ現場をわかっていないから」と言って、意見を軽視するのは大変もったいないことです。まだ勤め始めたばかりだからこそ、新しい考え方を持っているからこそ持てる、客観的で建設的な意見である可能性があります。この貴重な意見を軽視してしまうと、組織としての成長を逃してしまいかねません。

おわりに

全3回を通し、「こうしてはいけない」という例だけでなく、「こうしていくと、組織がもっと良くなる」という方法のひとつの観点として、心理的安全性の視点で見てきました。第1回でお伝えしたように、後輩を持つ立場であれば、いつの間にかパワハラの加害側に回ってしまう可能性があります。パワハラ予防のためにも、チームのリーダーの立場にいる人が心理的安全性を高める働きかけをしていくことが大切です。

先輩の立場にある方は、まずはご自分のチームから、心理的安全性を高めていかれ、パワハラの予防、そして、よりよいチームづくりに役立てていってください。
そして、主任やリーダー、管理職の方々は、是非、参考となっている文献にも触れていただき、より良い組織づくりに役立てていただければと思います。


≪心理カウンセラープロフィール≫

松本 いずみ
公認心理師。明治学院大学大学院心理学専攻修士課程修了。ストレスチェック実施者研修修了。スクールカウンセラーとして都内中高で12年間従事するかたわら、メンタルヘルスサイトにて一般向けに心理学コラムの執筆とメールカウンセリングを担当。プライベートでは0歳と7歳の2児の母。最近は「あつまれどうぶつの森」を家族で楽しんでいます。

参考・引用

厚生労働省 雇用環境・均等局「パワーハラスメントの定義について」資料4
エイミー・C・エドモンドソン・村瀬敏朗 著野津智子訳
恐れのない組織「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす
Google re:work ガイド「効果的なチームとは何か」を知る
https://www.mhlw.go.jp/content/11909500/000366276.pdf
https://rework.withgoogle.com/jp/guides/understanding-team-effectiveness/steps/define-effectiveness/
石井遼介 心理的安全性のつくりかた「心理的柔軟性」が困難を乗り越えるチームに変える 日本能率協会マネジメントセンター
関山浩司 ハラスメントを予防・解決する 保育の職場づくり 中央法規
湯澤悟 御社の「パワハラ問題すべて解決します」あっと驚く!5つの最強予防戦略

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