発達面が気になる子がいた時、保護者にどう伝える?
- 保育士お役立ち情報
- 2023/02/09
…初めての場面や予定外の場面でパニックになりやすい
…制作の時間に長く座っているのが難しい
…ルールや順番を守ることがいつも難しい
そういったことが度々見られると、「もしかして、発達面で何かあるかもしれない…」と、気になることがあるかもしれません。
今回は、あなたのクラスに発達障害可能性がある園児がいた際に、どのように保護者に伝え、協力関係を作っていくのが望ましいのかについて考えていきましょう。
発達障害とは
まず、発達障害について、簡単に復習しておきましょう。
発達障害とは、発達障害者支援法において「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるもの」と定義されています。
(文部科学省HP https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/hattatu.htm)
現在、発達障害には、こちらのものが含まれています。
2013年にアメリカ精神医学会の診断基準DSM5が変わり、アスペルガー症候群はASDに含まれることになりました。症状の出方や程度は様々で、いくつか重なっている場合もあります。
早期に支援につなげる大切さ
発達の偏りに対する支援は、なるべく早くから始められるに越したことはありません。
というのも、早い段階で適切な支援を受けられた子どもほど、高校を卒業し、社会に出てからの生活がしやすくなると分かってきているからです。反対に、なかなか支援を受けられずに育った場合、社会に適応するのが難しくなってしまうことが少なくありません。
できれば幼児期に入る(3、4歳)頃には周囲が気付き、本人が支援を受け始められること、また、保護者がその子の特性を理解し、相談できる場所につながれることが望ましいです。
ですから、その子の将来のためにも、保育士の皆さんには、障害に対する理解や、できる限りの支援を行っていただければと思います。
発達の特性が見えてくる時期は?
発達の偏りに周囲が気づけるタイミングはいつ頃なのでしょうか?「発達障害」と言っても障害によって、特性は様々ですから、特性があらわれやすい年齢も異なってきます。
例えば、自閉症スペクトラム場合、典型的な特性があらわれていれば2〜3歳で周囲が気づくことができ、確定診断がされる場合もあります。
一方、ADHDの場合は、特性が「不注意(集中することが難しい)」「多動―衝動性(じっとしていることが難しい)」というものですから、6歳までの子どもであれば、それが通常の範囲とも言え、小学校に入ってから、授業中の離席が目立ち、気づかれるということもまだ多いです。
巡回相談や診断、加配につなげるには
確定診断がなくても、対応はある程度可能です。しかし、状況によっては、配置された保育士の人数では対応が難しく、加配保育士を付けたい場合もあるでしょう。しかし、そのためには、通常、診断を受けることが必要です(自治体により基準が異なります)。
ただ、保護者が気づいていない場合に、突然、「発達の専門家に相談してみませんか?」と園側から提案したところで、上手くはいきそうにないですよね。なるべく、保護者が受け止めやすい流れを作ったうえで進めていきたいものです。
ですから、まず、保護者との協力関係を築くことが大切になってくるのです。
保護者と協力関係を築いていくには
次のような手順で進められることを提案いたします。
ただし、ただそのまま活用されるのではなく、あくまでモデルとしていただき、園長や主任など上司、ペアの先生と相談し、ご家庭や本人の様子、園の方針などを加味したうえで進めていただければと思います。
(1)状況把握
(2)園での様子を伝え、ご家庭ではどうか尋ねる
(3)ご家庭でうまくいっている方法を聞き、園でもやってみる
(4)結果、成長の様子を伝える
(1)状況把握
まず、気になる園児について、どんな時に、どのように困りやすいのか、状況を確認しましょう。困った子ではなく、困っている子という視点で見ることが大切です。
関わっている他の先生にも、同じようなことがなかったか聞いてみましょう。前年度の受け持ちの先生に様子を聞くのも良いですね。
例)
・好きなオモチャを他の子が使っていると、自分が使えないことが悲しくて激しく泣いたり、怒ったりしている
・好きな活動の後、気持ちの切り替えができなくて、泣きたくなったり、イライラしたりして、次の活動に移ることを辛そうにしている
・去年から、同じような状況が続いている
(2)園での様子を伝え、ご家庭ではどうか尋ねる
状況が把握出来たら、「園で本人が困っている様子がある」「園で安心して過ごせるように対処したい」ということを保護者に伝えましょう。
方法はお迎えの時の連絡でも良いですし、連絡帳を活用しても良いでしょう。
※この時、周囲を困らせているニュアンスで伝えてしまうと、保護者は傷ついてしまったり、場合によっては反感をかってしまったりすることもありますので、重々注意してください。
例えば、次の活動につることが難しい子の場合なら…
「とても熱中して遊んでいるのですが、次の活動に移れない時があり、本人も折り合いがつかないようで涙が出てきて困っている様子です。おうちではいかがですか?」
などと聞いてみてください。
発達の偏りによる特性であれば、複数の場所(家庭、園など)で同じ様子が見られます。
もしも、園だけで見られる行動であれば、別の原因も考えられます。ただし、集団生活でのみ、見られる行動の場合もあります。
保護者自身も育てにくさを感じている場合もあり、このような問いかけをきっかけとして、様々な話をしてくれるようになるかもしれません。「もしかして…」と思いつつ、「外では問題ないなら…」と様子を見ていることもあるのです。
(3)ご家庭でうまくいっている方法を聞き、園でもやってみる
本人が困っている時に、ご家庭でされている工夫、切り抜け方法を聞いてみましょう。もしも、ご家庭でしている工夫がうまくいっているようなら、園でもできる範囲・形式でその方法を試してみましょう。
反対に、園でやってみて上手くいった方法があれば、保護者に伝えてみてください。
(4)結果、成長の様子を伝える
保護者に教えていただいた工夫が実行出来たら、その結果を保護者に共有しましょう。
特に、本人の成長が見えた場合は、必ず伝えてくださいね。自分の子どもは迷惑に思われているかもしれないという不安を、払しょくすることにもつながり、信頼関係が深まります。
例えば、
「今日、次の活動に移る時、時間は少しかかりましたが、泣かずに移ることができましたよ」
「次の活動に移るのは辛そうでしたが、頑張って切り替えて、始めてからは楽しめていましたよ」
などと、ポジティブな形で伝えてみてください。
このようなやり取りを繰り返し、ある程度信頼関係を築くことができた段階で、巡回相談や発達障害を診られる病院の受診を提案してみてください。我が子を理解してくれ、色々してくれていることが伝わっている段階であれば、スムーズに受け止めてもらいやすいでしょう。
発達障害の知識があっても受容には長い時間がかかる
以前に比べ、発達障害について知識があったり、理解を深めていたりする保護者は増えています。しかし、いざ、自分の子がそうかもしれないと気づいても、受け入れることは、なかなかすんなりとはいかないものです。
自治体の健診で指摘がなく、保育園が初めて発達について指摘を受ける場所になる可能性も大いにあります。どのような形で伝えても、緩和はできてもショックはあることを念頭に置いておいた方が良いでしょう。
皆さんには、そういった保護者の気持ちに寄り添いながら、どうすればその子が楽しく園での生活を送ることができ、小学校での生活や、その後につながる力を身に着けていけるのかを考えながら、保育をしていただければと思います。
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≪心理カウンセラープロフィール≫
松本 いずみ
公認心理師。明治学院大学大学院心理学専攻修士課程修了。ストレスチェック実施者研修修了。スクールカウンセラーとして都内中高で12年間従事するかたわら、メンタルヘルスサイトにて一般向けに心理学コラムの執筆とメールカウンセリングを担当。プライベートでは0歳と7歳の2児の母。最近は「あつまれどうぶつの森」を家族で楽しんでいます。
参考文献
上原 文
「気になる子」にはこう対応してみよう PriPriブックス 世界文化社
田中康雄
イラスト図解 発達障害の子どもの心と行動がわかる本 西東社
笠原麻里
赤ちゃん〜学童期 発達障害の子どもの心がわかる本 主婦の友実用No.1シリーズ 主婦の友社
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